まえがきにかえて
#0000000
「さて」
さてと呟くところから物語は始まる。始まることは予め定められており、目次にもそう書いてある。これは経験則だが、目次に書かれていることは大抵が真実で、嘘の書いてある目次に出会ったことがない。
経験。それは誰のものなのか。そもそも、さてと呟いたのは誰であったのか。この文章には誰も、誰一人として存在していない。しかし誰かがさてと呟いている。故に、辻褄を合わせるためには、新しく誰かを存在させなければならない。
なに、簡単なことだ。
そんなもの、ちょっと書き加えてやればいいだけの話なのだからね。
#0000001
「さて」
さてと呟くところから物語は始まる。始まることは予め定められており、目次にもそう書いてある。
「とはいえ」
ここには僕しか存在しないので、発話する必要はないのだけれど。必要がなければ能力というのは発展しない。必要とされているからこそ成長し、その先へと進んでゆくのだ。必要でないものはどこにも辿り着かない。例えばこうした一人語りとか。
別にどこかに辿り着きたいわけではないけれど、きっとこれは僕の生まれた根幹に関わる問題に触れるその衝撃を少しでも隠そうとする、いじましい前置きであるけれど、一人で話していても全く面白くないだろう。
神は言った。面白くあれ。
かくてアダムは自らの肋骨を引き抜き、捏ねて、新しく伴侶を創り出す。
引き抜いたところが痛むので、なるべく優しく、傷に響かないような彼女を。
#0000002
「さて」
さてと呟くところから物語は始まる。始まることは予め定められており、目次にもそう書いてある。
「目次? なんの話?」
「つまり、この世界の成り立ちについて説明しようと思って」
「この世界?」
彼女は首を傾げる。
「ここには何もないじゃん」
一面の白く広がる世界を見渡して、彼女はそれから僕を見た。
つまりそれは、控えめな命令に他ならない。
彼女は僕に言っているのだ。
創れ、と。
「うーん」
それはいくらなんでも、途方がなさすぎるんじゃないですかね。