たぬきの木屑ブログ

なんでも書くたぬ

鉄屑について

 鉄屑は良い。ぼくは鉄屑が大好きだ。

 金物工場などの近くには大抵ドラム缶が積んであり、その中には金属製の端材、ぐるんぐるんにねじれて縦ロールみたいになった鉄屑がたくさん入っている。そういう鉄屑の中からお気に入りの鉄屑を選び出しては、これは伝説の海中帝国が創り出したオーパーツなのだ、などといった逸話をくっつけてその辺に埋めて、掘り戻して遊んでいたものだった。


 そんなぼくだが、別に特別ロボットものが好きというわけではない。昔は狂ったような鉄ヲタだったらしいが、5歳のとき車にぶつかって強く頭を打って以来、電車にまるで興味を持たなくなったらしい。ただ、アーマードコアは好きだった。敵を鉄屑に変えることが好きだったわけではない。ぼくはロボを駆り、空を飛ぶことが好きだったのだ。


 果たしてぼくは、空を飛んだ。アーマードコア4……PS3XBOX360で発売されたゲームだ。当時の次世代機初のアーマードコアシリーズの発売に、別にぼくはさほど興奮したりはしなかった。ただ、まあいつものアーマードコアだし買っとくか。そう思った。しかし4は、アーマードコア4は、いつものアーマードコアではなかった。

 泥臭く、カエルのようにピョンピョコ小ジャンプを繰り返す移動がアーマードコアの世界では良しとされていた。移動方向が直線にならないため、敵の射撃武器を躱しやすいからだ。つまるところ回避行動とは、敵のお粗末なロックオン機能の穴を突くような動きをどれだけ連続できるか、といった受け身的なものであった。4は違った。クイックブーストボタンというとびきりクレイジーなそのトリガーを引くと、機体はハンマーでぶん殴られたようにものすごい加速で移動した。「見てから回避余裕でした」。敵の射撃を見てから避けられる。こんなすごいゲームが世の中にあったか?

 アーマードコア4はシナリオも素晴らしかった。アーマードコアシリーズを遊んできたぼくは、言ってみれば老兵のようなものだった。そしてアーマードコア4の主人公は、伝説の古兵。旧世代兵器で無敵の男が、新世代の兵器に蹂躙され、敗北し、新たに新世代の兵器に適応しようとするストーリーだった。それはまさしく、旧シリーズから、アーマードコア4に適応しようとするぼく自身と重なった。ぼくは震えた。


 気が狂ったようにのめり込んだ。己のイメージと、実際の動きをアジャストするため、何度も同じような動きを繰り返した。同じミッションを続けてプレイし、同じ敵を鉄屑に変え続けた。意のままに動くゲーム内の機体は、まさしく自分の機体だった。ぼくの機体。ぼくの鉄。ぼくは時速2000km/hで空を駆け、鉄屑を生みまくった。お前たちは全員鉄屑だ。鉄屑でなければラグアーマーだ。I'm thinker I could break it down〜


 時は流れ、アーマードコアV(ファイブ)では、操作感覚がまたも一新されてしまった。ぼくは空を飛べなくなり、鉄屑を生む側から鉄屑になる側になって、コントローラーを床に置いた。

 鉄屑という文字を見ると、そんなことを思い出す。